「FAQを作っておいて」。会議の最後に、ついでのように頼まれる。開いたのは、見出しの列だけ用意された空のQ&Aシート。何件書けばいいのかも、どこから拾えばいいのかも決まっていない。
カーソルが点滅したまま、1行も埋まらずにその日が終わります。
FAQの原稿づくりでつまずくのは、たいてい次の3点です。
- 質問をどこから何件集めればよいのか、基準が決まっていない
- 生成AIに書かせた回答が一般論で、社内でそのまま使えない
- 出てきた文章のどこを人が直すべきか、判断がつかない
この記事では、製品選びには踏み込まず、原稿をつくる工程だけに絞って次のことに答えます。
- 問い合わせログから質問を30〜50件抜き出す集め方
- 回答の原稿を生成AIに書かせる5ステップ
- そのままコピーして使えるプロンプト2本と、書き換える箇所
- 公開前に人が必ず直す3か所
Saix自身、社内マニュアル67本を材料にQ&Aの原稿をAIで起こし、社内向けAIヘルプデスクの回答の土台として運用しています。作り手であり利用者でもある立場から、机上論ではなく手を動かす前提で書きます。
生成AIでFAQを作る作業は、指示文の巧拙ではなく材料の準備で決まります。実際に聞かれた質問を先に30〜50件そろえ、回答の根拠になる社内資料をそのまま添えて渡す。この2つがそろえば、一から書き起こすより短い時間で原稿が形になります。
ここを飛ばすと、何度書き直させても一般論しか返ってきません。
監修者
株式会社Saix 代表取締役
東証プライム上場企業含む100社以上のAI導入支援|リクルートでのAI推進・新卒マニュアル制作経験を経て、Webサイト「AIマニュアル研究所」を運営|YouTubeメディア「かいちのAI大学」4.8万人。
生成AIでFAQを作るとは|ボットを入れる話ではなく原稿を作る話

FAQをAIで作る、という言葉には工程の違う2つの作業が混ざっています。質問と回答の原稿そのものを書く工程と、その原稿を検索させたり自動応答させたりする仕組みの工程です。
先に手をつけるべきは原稿のほうです。中身の入っていない箱をいくら用意しても、返ってくるのは「該当する回答が見つかりません」だけです。
FAQづくりが止まる原因は、ツールを決めていないことではありません。書く材料が手元にそろっていないことです。生成AIが効くのはまさにその原稿側で、数十件のQ&Aを人が一から書き起こす作業は、材料さえそろっていれば一気に片づきます。
仕組み側の検討は、原稿が30件たまってからで間に合います。方式の違いや費用の考え方は、AI FAQの仕組みと3方式の使い分けで整理しています。この記事が扱うのは、その手前の原稿工程だけです。
質問を集める|問い合わせログから30〜50件を抜き出す

原稿づくりは、すでに聞かれた質問を集めるところから始まります。ここを飛ばして質問文を想像で書き始めると、誰も検索しない言い回しのFAQができあがります。
質問の元ネタは、社内のどこかに必ず文字で残っています。探す場所は次の4か所で足ります。
| 集め先 | 何が取れるか | 見落としやすい点 |
|---|---|---|
| チャットツールの検索履歴 | 実際の言い回しのままの質問文 | 返信スレッドの2通目以降に本当の質問が隠れている |
| 問い合わせメールの件名 | 質問の分類と発生時期の偏り | 件名が「お疲れさまです」だけの回が多く、本文まで開く必要がある |
| 担当者への口頭質問 | 文字に残らない、頻度の高い質問 | 本人は「毎回聞かれる」と自覚していないことが多い |
| 既存マニュアルの目次 | 本来あるはずの項目の抜け | 目次にあっても中身が空、という項目が混ざる |
文字に残っていない口頭の質問は、担当者に「先週は何を聞かれましたか」と尋ねても出てきません。本人にとっては答えるのが当たり前の作業になっているためです。
質問を思い出させるより、直近1週間の予定表を一緒に開いて、割り込みが入った時間帯を指させるほうが早く出てきます。
件数の目安は30〜50件です。20件を下回ると、検索してもほとんど当たらないため使われません。逆に100件を超えると人の確認が追いつかず、精度の低い回答が混ざったまま公開されます。
まずは30件で公開し、聞かれた質問を足していく形が現実的です。Saixでも、社内のAIヘルプデスクに届いた質問ログを課題マップとして扱っています。件数が集中している領域から原稿を書く順番を決めています。
集めるときは、業務が集中する時期を狙うと効率が上がります。介護事業所であれば、記録ソフトへの入力方法や加算要件の確認が、請求業務の締切前に固まって発生します。
店舗を10前後持つ飲食チェーンなら、シフト提出の締切、交通費の申請、備品の発注先。この3つが月初の数日に本部へ集中しがちです。その時期のログだけを見れば、上位の質問はほぼ拾えます。
ゴール:質問文だけが並んだ一覧が30件以上あり、それぞれ何回聞かれたかが分かる状態になっていればOKです
回答の原稿を生成AIに書かせる5ステップ

質問が集まったら、回答の原稿に進みます。ここから先は5つのステップに分かれ、生成AIが担うのは3つ目までです。残りの2つは人の作業として最初から工数に入れておきます。
STEP1:根拠になる社内資料を1つの箱に集めて、そのまま渡す
何を就業規則、経費精算の手引き、システムの操作手順、過去の回答メール。質問に答えるための根拠になる文書を、フォルダ1つにまとめます。整形は不要です。
体裁を整える時間より、根拠の抜けを埋めるほうが回答の質に効きます。Saixでは正本をローカルの管理フォルダに置き、目録ファイル1本で社内ポータルへ一方向に同期しています。最新版がどれか分からない状態を作らないためです。
どうやってまとめた資料をAIのチャット画面にそのまま添付します。ここで効いてくるのが、1回に渡せる分量の上限です。実際に各社の公式ヘルプを開いて確認したところ、受け口の条件は次のようになっていました。
| 確認した項目 | Claude(公式ヘルプの記載) | Gemini(公式ヘルプの記載) |
|---|---|---|
| 1回のチャットに添付できるファイル数 | 20ファイルまで | 10ファイルまで |
| 1ファイルあたりの容量 | 500MBまで | 100MBまで(動画は2GBまで) |
| PDFの読み取り | 100ページ以下は図表も読み取り、1000ページ超は本文テキストのみ | ページ数の上限は明記なし |
| ZIPでまとめて渡す場合 | 公式ヘルプに条件の記載なし(ファイル単位で添付) | 10ファイル・100MBまで。動画と音声は同梱できない |
※上限は各社公式ヘルプの記載(2026年7月時点)にもとづきます。仕様は改定されるため、実際に渡す前に公式ヘルプで最新の条件をご確認ください。
資料が20本を超える場合は、質問の分類ごとに会話を分けます。経費の質問には経費の資料だけを渡す。全部をまとめて渡すより、範囲を狭く切ったほうが回答は具体的になります。
資料を整えてから渡そうとすると、そこで止まります。私たちも整形はしていません。代わりに正本の置き場所を1つに決めて、そこから配布先へ一方向に流すだけにしました。古い版がAIに混ざる事故は、この一本化でしか消えません。
STEP2:質問文だけを先に整えて、重複を1本にまとめる
何を集めた質問には、同じことを違う言い方で聞いているものが必ず混ざります。「交通費っていつまでですか」と「経費申請の締切を教えてください」は同じ質問です。
どうやって後述する質問抽出用のプロンプトに、集めた履歴を貼り付けて統合させます。このとき回答はまだ書かせません。質問文と回答を同時に作らせると、AIが質問のほうを回答しやすい形に作り替えてしまいます。
実際には聞かれていない質問が並び、検索に当たらなくなります。
STEP3:回答を書かせる前に、答えてよい範囲を指示で縛る
何を回答生成の成否は、答えてよい範囲をどこまで狭く指定できるかで決まります。根拠を渡した資料の中だけに限定し、書けないものは書けないと言わせる。指示の中心はこの2つです。
どうやって「添付資料に書かれていないことは推測で補わず、担当者に確認が必要と書く」の1行を条件に入れます。この1行があるかないかで、原稿の使える割合が変わります。
あわせて、根拠にした資料名と該当箇所の見出しを回答の末尾に書かせておくと、次のステップの事実確認が一気に軽くなります。
回答が埋まらないのは失敗ではありません。私たちの社内AIも、資料に無い質問には「担当者にご相談ください」としか返しません。正直、最初は物足りなく見えます。ただ、何でも答えるAIは一度外した時点で誰も開かなくなります。
STEP4:出てきた原稿を、事実と社内の言い回しに合わせて直す
何をAIが出すのは下書きです。人が見るのは3か所だけで足ります。書かれた事実が資料と合っているか、社内で使っている呼び方になっているか、回答してよい範囲を超えていないか。
どうやって末尾に書かせた出典を頼りに、資料の該当箇所と突き合わせます。全文を読み直す必要はなく、確認すべき箇所は出典の付いていない文だけに絞り込めます。出典が付いていない文は、AIが一般知識で補った箇所そのものです。
STEP5:答えられなかった質問を残して、次の材料にする
何を資料が足りず回答が書けなかった質問は、消さずに一覧で残します。ここが次に整備すべき社内資料のリストになります。
どうやってプロンプトの最後に「資料が足りず書けなかった質問を一覧にする」と入れておけば、AIが自動で切り分けます。この一覧は、社内のどこに文書が存在していないかを示す地図として使えます。
ゴール:出典付きの回答が30件そろい、書けなかった質問が別リストになっていればOKです
そのまま使えるプロンプト2本|長くしても回答は良くならない

ここから先は、そのままコピーして使える指示文です。プロンプトとは、AIに「こう作ってほしい」と伝える指示の文章のことを指します。角かっこの部分だけを自社の言葉に置き換えれば動きます。
1本目は、集めた問い合わせ履歴から質問文だけを抜き出すためのものです。回答を書かせないと明記している点が、この指示文の要です。
役割:社内ヘルプデスクの担当者
以下に貼り付けた問い合わせ履歴から、社内FAQに載せる質問文だけを抜き出してください。
条件
- 同じことを聞いている質問は1本にまとめる
- 質問文は「〜はどうすればよいですか」の形にそろえる
- 回答はまだ書かない
- 出力は 分類 / 質問文 / 元の問い合わせ件数 の3列の表にする
- 抜き出せた質問が30件に満たない場合は、その旨を最後に書く
問い合わせ履歴
[ここに貼り付け]
2本目は回答生成用です。添付した資料だけを根拠にすること、書けないものを書けないと言わせること、出典を残させること。この3点を条件に入れておけば、公開前の確認作業の設計まで同時に済みます。
役割:社内ヘルプデスクの担当者
添付した社内資料だけを根拠にして、以下の質問への回答を書いてください。
条件
- 資料に書かれていないことは推測で補わず、「担当者に確認が必要」と書く
- 回答は結論を1文目に置き、手順がある場合は番号付きで3〜6行にまとめる
- 社内で使われている呼び方(システム名・帳票名)は、資料の表記のまま使う
- 各回答の末尾に、根拠にした資料名と該当箇所の見出しを書く
- 最後に、資料が足りず書けなかった質問を一覧にする
対象の質問
[ここに貼り付け]
プロンプトを長くしても回答は良くなりません。効いているのは条件の行数ではなく、根拠を資料に縛った1行と、社内の表記を保たせる1行の2つです。それ以外の条件を足すほど、AIは指示の優先順位を見失います。
書き換える箇所は冒頭の役割行だけで十分です。経理の質問なら経理担当、システムの質問なら情報システム担当と置き換えます。役割を具体的にするほど、AIは社内文書に出てくる用語を選び取るようになります。
Saixの社内AIヘルプデスクでは、これに加えて専門用語を避けること、絵文字を使わないこと、断定せず読んだ本人が確かめて判断できる書き方にすることを条件に入れています。
生成AIが書いたFAQをそのまま公開すると起きる3つの事故

原稿が出そろうと、そのまま社内に配りたくなります。ここで起きる事故は毎回同じ3つに集約されます。
事故1:資料に無い手順を補って書き、存在しない運用が社内に広まる
AIは空白を嫌います。根拠を縛らずに書かせると、一般的にはこうだろうという手順で穴を埋めてきます。厄介なのは、その文章がいちばん読みやすく仕上がることです。実在しない申請フォームの名前や、決裁者の役職が自然な文体で紛れ込みます。
事故2:社内の呼び方が一般語に直され、検索しても出てこなくなる
建設会社であれば、現場ごとに呼び方の違う書類名が、そのままFAQの検索語になります。社内で「安全書類」と呼んでいるものを「グリーンファイル」という一般的な名称に書き直された瞬間、検索しても当たらなくなります。
内容は正しいのに、誰にも見つからないFAQができあがります。
生成AIが書いたFAQで危ないのは、間違った回答ではありません。もっともらしく整っていて、誰も疑わない回答です。
事実と違う手順は、読んだ人が試した瞬間に露見して直ります。ところが社内の呼び方を一般語に置き換えられた回答は、間違っていないまま検索から外れ、誰にも使われずに残り続けます。
公開前に見るべきは正しさより、社内で通じる言葉で書かれているかどうかです。
事故3:見せてはいけない情報が、回答文の中に混ざって全社に出る
人事評価の基準、役員だけが見る決裁ルール、特定部署の単価表。これらが資料の束に紛れて渡ると、回答の中に自然な形で溶け込みます。
回答側で伏せる仕組みを作るより、渡す資料を選ぶ段階で公開範囲を部署ごとに切り分けるほうが確実です。出力を後から制御する設計は、必ずどこかで抜けます。
Saixでは資料ごとに公開部署を5区分で指定し、AIが知識に使えるのは質問した本人に見える資料だけになる形にしています。
この3つはいずれも、公開前の確認で潰せます。逆に言えば、AIに書かせる工程を短くした分は、人が確認する工程に返すのが正しい配分です。
原稿がそろい、自動応答の製品を検討する段階まで進んだら、AI FAQボット比較12選で料金と課金軸を確認できます。
出力側でうまく伏せる設計は、必ずどこかで抜けます。私たちは資料ごとに見せる部署を5区分で決めて、AIが読める範囲そのものを質問した本人に合わせました。渡していない情報は、そもそも漏れようがないので。
Saixが社内67本の資料からFAQ原稿を作っている手順

Saixでは、社内マニュアル67本を社内ポータルに集約し、そこからQ&Aの原稿を起こしています。カテゴリは社内マニュアル、オンボーディング、営業・提案、顧問先提供の4分類で、質問の種類ごとに渡す資料の範囲を切り替えています。
回答を作らせるときは、公開中のマニュアル全件をタイトル・説明・タグ・本文要点に圧縮して渡す方式を取っています。1件600字、全体4万字を上限にした要約を毎回渡す形です。
検索用のデータベースを別に構築せず、要点を丸ごと読ませる構成にしたのは、資料が変わらない限り2回目以降の処理コストが約10分の1になるためです。
回答のルールも指示で固定しています。社内資料だけを根拠にすること、資料に無いことは憶測せず「担当者にご相談ください」と返すこと、根拠にした資料を最大3件まで示すこと。この3つを外すと、原稿の確認工数が跳ね上がります。

もうひとつ、原稿を書く順番を決めるために使っているのが質問ログです。寄せられた質問はツールの使い方、クライアント対応、請求・契約、ファイル管理、AI活用、営業・提案、社内制度、その他の8カテゴリに自動で分類されます。
質問が集中しているカテゴリは、そのままFAQ原稿を次に書くべき領域を示しています。社内の探しものは、担当者に聞く行為からAIに尋ねる行為に置き換わりました。
FAQの原稿づくりから、社内で使われる形になるまで一緒に設計します
問い合わせログの集め方、AIに渡す資料の整え方、公開前の確認をどこまで人が持つか。この記事の手順を御社の体制に当てはめる打ち合わせを、オンラインで無料で行っています。原稿が1本もない状態からで問題ありません。
よくある質問
Q. 社内資料を生成AIに読ませて情報漏洩の心配はないか
法人向けプランを使い、入力内容を学習に使わない設定になっているかを契約書と設定画面の両方で確認してください。そのうえで、渡す資料そのものを絞るのが確実です。人事評価や単価表を最初から資料の束に入れなければ、回答に混ざる経路が存在しません。
制御すべきなのは出力側より、AIに渡す入力側です。
Q. FAQの原稿は何件から始めればよいか
30件です。20件を下回ると検索が当たらず、使われないまま忘れられます。逆に最初から100件を目指すと、人の確認が終わらず公開そのものが止まります。
実際に聞かれた質問の上位30件で公開し、答えられなかった質問を毎月足していく形が、いちばん止まりにくい進め方です。
Q. 無料の生成AIだけでFAQ原稿は作れるか
原稿づくりまでなら無料枠でも作れます。無料プランは1日に添付できるファイル数や回数に制限があるため、資料を分割して数日に分けて回す形になります。
有料プランが必要になるのは、資料の量が増えて毎回まとめて渡したくなった段階と、社内の誰もが同じ条件で使える環境を用意する段階です。
まとめ
生成AIでFAQを作る作業は、原稿工程と仕組み工程に分かれます。先に着手すべきは原稿で、そこで効くのは指示文の巧さではなく材料の準備です。実際に聞かれた質問を30〜50件そろえ、回答の根拠になる社内資料をそのまま添えて渡す。
この2つがそろっていれば、指示文はここに載せた2本のままで動きます。
指示文に必ず入れる条件は2つだけです。資料に無いことは推測で補わせないこと、社内の呼び方を資料の表記のまま使わせること。この2行が、公開前の確認工数と、公開後に検索されるかどうかを同時に決めています。
まずは直近1か月の問い合わせ履歴を開き、同じ質問が3回以上出ている項目に印を付けてください。そこが30件そろった時点で、この記事のプロンプトがそのまま動きます。
自動応答の仕組みまで一気に進めたい場合は社内FAQをAIで作る方法が次の一手になります。社内の資料整備から回答の運用までまとめて任せたい場合はAI社内マニュアル構築支援で相談を受け付けています。
結論:生成AIでFAQを作る成否は、指示文ではなく渡す材料で決まる。実際に聞かれた質問30〜50件と、根拠になる社内資料。この2つを先にそろえる
- 質問は集める、想像しない:チャット履歴・メール件名・口頭質問・既存目次の4か所から30〜50件を抜き出す
- 5ステップのうちAIは3つまで:材料の準備、質問の統合、回答の生成まで。事実確認と社内表記の調整は人の工程として工数に入れる
- 指示文の要は2行:資料に無いことは推測で補わせない、社内の呼び方を資料の表記のまま使わせる
- 公開前に見るのは3か所:事実が資料と合っているか、社内で通じる言葉か、見せてよい範囲を超えていないか




