「担当の者に代わります」。そう言ったまま、保留のボタンを押して30秒。入って二週間の事務スタッフが、誰に回せばよいか分からず立ち尽くしています。
壁には電話対応のフロー図。矢印はきれいに並んでいますが、口に出す言葉は1行も書かれていません。
電話対応のマニュアルづくりでつまずくのは、たいてい次の3点です。
- フロー図はあるのに、実際に声に出す言い回しが書かれていない
- 問い合わせ・苦情・営業電話が混ざり、どれをどこまで自分で答えるか決まっていない
- 例文を用意する時間が取れず、新人が先輩の応対を耳で覚えるしかない
この記事では、今日の午後から使える形になるよう、次のことに答えます。
- 名乗り・取次・保留・折り返しの4場面で、そのまま使える雛形の項目構成
- 問い合わせ・苦情の一次対応・営業電話・不在時の、そのまま声に出せる例文
- 自社の商品名や部署名に合わせて、例文をAIで量産するプロンプト
- 新人がつまずく3か所と、例文集が現場で開かれなくなる落とし穴
Saix自身、社内マニュアル67本を社内ポータルに集約し、部署ごとに見える資料を分けたうえでAIヘルプデスクに答えさせています。
マニュアルの作り手であり、日々それを引く使い手でもある立場から、机上論ではなく手を動かす前提で書きます。
電話対応のマニュアルは、手順書ではなく例文集として作ります。受話器を上げた人が必要としているのは工程の説明ではなく、次に口から出す一文だからです。
基本フローを4場面に固定し、場面ごとに例文を3本ずつ置く。AIに量産させれば、初版は半日で形になります。
業界を問わない雛形の共通項目から確認したい方は、次の記事が参考になります。

監修者
株式会社Saix 代表取締役
東証プライム上場企業含む100社以上のAI導入支援|リクルートでのAI推進・新卒マニュアル制作経験を経て、Webサイト「AIマニュアル研究所」を運営|YouTubeメディア「かいちのAI大学」4.8万人。
雛形を用意する目的は、書く時間を減らすことです。その時間が年間いくらになるのかを3分で出せます。
会社のホームページのURLを入れるだけで、削減できる時間と、それを人件費に換算した金額がその場でわかります。入力は5つだけ、3分で終わります。費用はかかりません。
以下の画像の「無料で試算する」をクリックして、まず自社の金額を出してみてください。

※ 画像の金額は表示例です。実際の試算額は入力内容によって変わります。
電話対応マニュアルが使われない理由|フロー図はあるのに、口に出す言葉がない

電話対応の文書を持っている会社は多くあります。使われていない理由は、たいてい1つです。
書かれているのが工程で、口に出す言葉が無いからです。「相手の会社名と名前を確認する」と書かれていても、新人はどう言えばよいかで止まります。
工務店の事務所で、入って二週間のスタッフが取った電話がそれでした。相手は施工中の現場の職人。用件は資材の入荷の確認です。
スタッフは用件を聞き取れましたが、誰に回すかが分かりませんでした。取次ぎで詰まるのは、聞き取りの能力ではなく、社内の担当の割り振りを知らないからです。
歯科医院の受付でも同じことが起きます。予約変更、治療内容の質問、保険証の相談が同じ番号にかかってきます。どこまでその場で答えてよいかの線が引かれていないと、毎回奥へ確認に行くことになります。
電話対応でよくある3つの誤りがあります。一般的なビジネスマナー本の内容をそのまま配ること。フロー図を精密に描いて例文を省くこと。応対の良し悪しを本人の性格の問題として扱うこと。どれも、受話器を上げた人がその場で使える材料にはなりません。
基本フローの雛形|名乗り・取次・保留・折り返しの4場面に固定する

場面を増やすと、雛形は完成しません。4つに固定します。名乗り、取次、保留、折り返しです。
4場面の項目構成:例文の欄と、判断の欄を必ず分けて持つ
各場面に持たせる項目は共通です。例文、確認する項目、判断のライン、記録の残し方の4欄で足ります。
| 場面 | 雛形に置く例文 | 確認する項目 | 判断のライン |
|---|---|---|---|
| 名乗り | 3コール以内と、それを超えたときの2種類を用意する | 相手の会社名・氏名・用件の3点 | 名乗りがない相手に、こちらから社員名を出さない |
| 取次 | 担当者名を復唱してから回すまでの一文 | 誰の担当か。分からないときの一次受け先 | 担当が不明なときは保留せず、折り返しに切り替える |
| 保留 | 保留に入る一文と、待たせたあとの一文 | 保留の開始時刻 | 30秒を超えたら一度戻り、状況を伝える |
| 折り返し | 時間の目安を添えて約束する一文 | 電話番号・都合のよい時間帯・用件の要約 | 時間の約束は幅で伝え、単一の時刻で約束しない |
3行目の30秒が要点です。保留の上限を数字で決めていない会社では、待たされた時間が全部そのまま印象に残ります。
取次の欄には、担当表ではなく「分からないときの行き先」を書く
担当者の一覧表を貼っても、新人は判断できません。用件の言葉と担当が結びついていないからです。
効くのは、用件の言葉から引ける対応表です。「請求書」「見積」「納期」「不具合」といった単語から、一次受けの担当へ引けるようにします。
そして必ず「どれにも当てはまらないとき」の行き先を1つ決めます。この1行があると、取次で立ち尽くす時間が消えます。
記録の欄:受けた電話を残さないと、同じ質問が何度も新人に返る
電話の記録は、伝言があるときだけ残す運用になりがちです。それだと、同じ問い合わせが繰り返されていることに誰も気づけません。
用件の種類と件数だけでも残しておきます。多い用件が見えると、次に足すべき例文がその場で決まります。
製造業の総務では、社外からの電話の半分近くが同じ数種類の用件だったという話をよく聞きます。記録の欄は、例文を増やす順番を決めるための材料でもあります。
ここまでの内容を自社に当てはめると、年間どれくらいの経費が減るのか。会社のURLを入れるだけで、その場で試算できます。
以下の画像の「無料で試算する」をクリックすると、入力から3分でその場に金額が出ます。

※ 画像の金額は表示例です。実際の試算額は入力内容によって変わります。
シーン別の受け答え例文|そのまま声に出せる形で持つ

以下は、上の型に沿ってAIに生成させ、実務で使える形に整えた例文です。自社の名乗り方に合わせて言い回しを差し替えて使ってください。
問い合わせ:答えられる範囲と、確認に回す範囲を口調で分ける
【受け方】
お電話ありがとうございます。株式会社◯◯、△△でございます。
【用件を聞き取る】
ご用件をうかがってもよろしいでしょうか。
(復唱)◯◯の納期についてのご確認、ということでお間違いないでしょうか。
【その場で答えられるとき】
はい、その件でしたら□□となっております。念のため、あとでメールでも同じ内容をお送りいたします。
【確認が必要なとき】
申し訳ございません。確認いたしまして、本日中に折り返しご連絡いたします。
お電話番号と、ご都合のよいお時間をうかがえますでしょうか。
最後の一文が要点です。「確認します」で終わらせず、折り返しの時間と連絡先まで同じ場面で取り切ります。
苦情の一次対応:内容を判定せず、事実だけを受け止めて引き継ぐ
【冒頭】
ご不便をおかけし、大変申し訳ございません。
差し支えなければ、状況を詳しくうかがえますでしょうか。
【聞き取り中】
(相手の言葉を遮らない。相づちは「はい」「さようでございますか」の2種類のみ)
確認させていただきます。◯月◯日にご購入いただいた□□について、△△という状況、ということでお間違いないでしょうか。
【引き継ぐとき】
担当の者にすぐ確認いたします。
本日中に、担当の◯◯より必ずご連絡を差し上げます。恐れ入りますが、お電話番号をうかがえますでしょうか。
一次対応で決めておくのは、話の範囲です。受話器を取った人がやるのは、事実の聞き取りと引き継ぎまでで、非があるかどうかの判断はしません。
謝罪の言葉も、範囲を分けます。手間をかけたことへの謝罪は最初に述べ、責任の所在に触れる表現は担当者へ渡します。
引き継いだあとの対応の設計はクレーム対応マニュアルをAIで作る方法にまとめています。ここでは一次対応までに絞ります。
営業電話の断り方:法律が定めた線引きに沿って、一文で終える
営業電話への対応を各自の判断に任せると、時間の使い方が人によって変わります。ここも例文で固定します。
【断る】
恐れ入りますが、そういったご案内はお断りしております。
今後のご連絡もご遠慮いただけますでしょうか。失礼いたします。
【担当者を出すよう求められたとき】
申し訳ございません。担当者へのお取次ぎもいたしかねます。
【資料送付を求められたとき】
恐れ入りますが、資料のご送付も不要でございます。
この言い回しには根拠があります。消費者庁の特定商取引法ガイドの電話勧誘販売のページを実際に開いて確認しました。
事業者には勧誘に先立って氏名等を明示する義務があり(法第16条)、事業者の名称、勧誘を行う者の氏名、商品等の種類、勧誘目的である旨を告げなければならないとされています。
さらに、契約を締結しない旨の意思を表示した者への勧誘の継続や再勧誘は禁止されています(法第17条)。
※本記事の法令に関する記述は、消費者庁「特定商取引法ガイド」の電話勧誘販売のページ(2026年7月時点)の記載にもとづきます。個別の事案の判断は、所管の窓口や専門家にご確認ください。
つまり、断る意思を一度はっきり伝えることに意味があります。例文を「お断りしております」で終えず、「今後のご連絡もご遠慮ください」まで含めるのはこのためです。
不在時:伝言メモの欄を先に決めると、聞き漏らしが消える
【不在を伝える】
あいにく◯◯は席を外しております。戻り次第、折り返しご連絡いたしましょうか。
【伝言を預かる】
よろしければ、ご用件をうかがっておきます。
(復唱)□□の件で、△△様、お電話番号は◯◯◯、ということでうかがいました。
【時間の目安を添える】
◯◯は◯時ごろに戻る予定です。それ以降のご連絡でよろしいでしょうか。
伝言メモの欄は5つで足ります。受けた日時、相手の会社名と氏名、電話番号、用件、折り返しの要否です。
欄が決まっていない伝言は、受けた人の記憶の量に応じて内容が変わります。不動産会社の店舗で、内見希望の電話が名前だけのメモになって流れる事故は、この欄の不在から起きます。
電話対応の教育は、応対の丁寧さを鍛える方向に向かいがちです。しかし新人が固まるのは、丁寧さが足りないからではありません。次の一文が思い浮かばないからです。
鍛えるより、渡すほうが速い。例文を先に配り、慣れてから自分の言葉へ置き換えてもらう順番のほうが、現場は早く立ち上がります。
例文を自社用に量産するプロンプト|3回のやり取りで初版がそろう

例文は、自社の商品名・部署名・よく来る用件に合わせて作り直したときに効きます。ここはAIの得意な作業です。
STEP1:直近1か月に来た電話の用件を、20件だけ書き出す
材料は着信履歴で足ります。受けた人に、用件だけを箇条書きで20件挙げてもらいます。整った文章にする必要はありません。
用件が20件そろうと、そのうち上位5件で全体の大半を占めることが分かります。例文を作るのは、まずその5件だけです。
STEP2:プロンプトに用件と社内の言葉を渡す
下のプロンプト(=AIへの指示文)を使います。プロンプトとは、AIに「こう作ってほしい」と伝える指示の文章のことです。
電話応対マニュアルの編集者として作業してください。
以下の条件で、そのまま声に出して読める応対例文を作ってください。
【自社の情報】
・会社名/部署名:<記入>
・受電する人:<事務/受付/営業アシスタント など>
・よく来る用件の上位5件:<STEP1の書き出しを貼る>
・その場で答えてよい範囲:<例)在庫の有無、営業時間、住所>
・必ず担当へ回す用件:<例)金額、納期の変更、不具合の申告>
【出力の条件】
・場面は「名乗り」「用件の聞き取り」「その場で回答」「確認して折り返し」
「不在時の伝言」「苦情の一次対応」「営業電話の断り」の7つ
・各場面につき、そのまま読める例文を2〜3本。地の文の解説は付けない
・復唱の一文を必ず入れ、確認する項目を明示する
・専門用語や社内の略語は使わない
・苦情の一次対応では、非の有無を判断する表現を入れない
・情報が足りない箇所は空欄にし、末尾に「確認が必要な項目」として一覧化する
最後の1行が効きます。空欄にして一覧化させると、社内で決まっていないことがそのまま質問リストになります。
STEP3:受けている人に読み上げてもらい、言いにくい箇所を直す
出てきた例文は、必ず声に出して確認します。読んで自然でも、話すと詰まる言い回しがあるからです。
直す観点は1つで足ります。「この言い方で、自分が電話を受けたときに口から出せるか」を本人に判定してもらいます。
Saixでは、社内マニュアルの本文をAIコーディングエージェント(Claude Code)に生成させ、図解や色分けを含んだHTMLの読み物として出力させています。
書式を整える作業を人が抱えないぶん、人の時間は判断の範囲を決めることに回せます。
ゴール:上位5件の用件について、そのまま読める例文が各2本以上そろっていればOKです
新人がつまずく3か所|保留・復唱・折り返しに集中する

つまずく場所は、ほぼ3か所に集中します。保留を長く取ってしまうこと、復唱を飛ばすこと、折り返しの約束を単一の時刻で切ってしまうことです。
この3つは性格ではなく、上限と型が決まっていないことから起きます。保留は30秒、復唱は用件と番号の2点、折り返しは時間の幅で伝える。数字で決めれば、初日から守れます。
自社の場合はいくらになるのか、この機会に出してみてください。削減できる時間と金額を、業務ごとに算出します。
以下の画像の「無料で試算する」をクリックして、AIで浮く金額を先に確認してください。

※ 画像の金額は表示例です。実際の試算額は入力内容によって変わります。
例文集が現場で開かれなくなる3パターン|落とし穴は量と置き場所と更新

例文集は、作った直後がいちばん使われます。落ちていく理由は3つです。
量が多い:30ページの例文集は、鳴っている電話の前で開けない
網羅した例文集は、探す時間が発生した時点で使われません。電話の前で開ける文書の上限は、A4で1枚です。
上位5件だけを1枚にまとめ、残りは別のファイルに置きます。使う頻度で紙を分けるのが早い。
置き場所が遠い:共有フォルダの奥にある例文は、二度目から開かれない
共有ドライブの階層の奥にあるファイルは、鳴っている電話の前では開けません。デスクに1枚、手元の端末から2タップ。ここまで下ろします。
Saixでは、社員が資料を探すのをやめてAIヘルプデスクに聞く形にしています。回答には根拠となった社内資料が最大3件添えられ、原典をその場で開けます。
探す動作をなくすと、文書は開かれる回数ではなく引かれる回数で測れるようになります。
更新が伝わらない:担当が変わった日、例文だけが前のまま残る
取次先の担当が変わったとき、例文の中の担当名は取り残されます。電話の例文は、組織図が動いた日に必ず古くなります。
Saixでは、正本ファイルを管理フォルダに置き、目録ファイルで公開範囲を一元管理しています。目録から外したものはポータルからも消える一方向の同期です。
更新のきっかけも決めておきます。担当が変わった日と、同じ用件の電話が3回続いた日。この2つに当てはまったときだけ直せば、更新は月に数本で収まります。
自社によく来る用件から、例文集の1枚目を一緒に作ります
業種と受電する人の役割によって、先に用意すべき例文は変わります。オンラインの無料相談では、直近の用件をうかがったうえで、最初に作る1枚の中身と、担当へ回す線の引き方を具体的にお伝えします。資料の準備は不要です。
よくある質問
Q. 通話の内容や顧客名をAIに入力しても問題ないか
例文を作る用途なら、実名を入れる必要はありません。必要なのは用件の種類であって、誰からの電話かではないからです。会社名は取引先A、担当者は役割で置き換えて渡してください。
通話録音そのものをAIに扱わせる場合は、録音の告知と保管の範囲を社内で先に決めます。
Q. 何本くらい例文を用意すれば形になるか
上位5件の用件に各2本、合計10本で回り始めます。直近1か月の着信から、多い順に5件を選んでください。網羅を目指すと、配る前に月が変わります。
Saixの社内でも67本まで増えたのは運用を続けた結果であり、最初から本数を目標にしたわけではありません。
Q. 無料のAIだけでどこまでできるか
例文づくりは無料の範囲で足ります。用件の一覧を渡して例文を生成し、声に出して直すところまでは無料枠で回ります。有料の判断が必要になるのは、全員が同じ場所から最新版を引ける状態にする段階からです。
置き場所と検索の仕組みまで含めて考えるときに、社内ポータルや専用ツールの検討へ進んでください。
まとめ
電話対応の文書は、手順書ではなく例文集として作ります。受話器を上げた人が必要としているのは、工程の説明ではなく次に口から出す一文です。場面は4つに固定し、各場面に例文と判断のラインを持たせてください。
例文は、自社の用件に合わせて作り直したときに効きます。直近1か月の着信から上位5件を選び、AIに各2本ずつ生成させる。読んで自然かではなく、声に出して詰まらないかで判定します。
苦情の一次対応では、範囲を先に決めます。事実の聞き取りと引き継ぎまでを担当し、非があるかどうかの判断はしません。営業電話は、断る意思を一文で明確に伝えて終えます。
次の一手は、直近1か月に来た電話の用件を20件書き出すことです。苦情の本格対応まで整えたい場合はクレーム対応マニュアルの型、店頭での応対もそろえたい場合は接客マニュアルをAIで作る手順が近い話になります。
電話に限らず社内の問い合わせ全体を整えたい場合は、AIマニュアル構築支援で実際の形をご覧ください。
結論:電話対応のマニュアルは、フロー図ではなく例文集として作ると、新人が初日から使えます。場面は4つに固定し、上位5件の用件に各2本の例文を置きます。
- 場面は4つ:名乗り/取次/保留/折り返し。各場面に例文・確認項目・判断のラインを持たせる
- 数字で決める:保留は30秒、復唱は用件と番号の2点、折り返しは時間の幅で約束する
- 苦情は範囲を切る:一次対応は事実の聞き取りと引き継ぎまで。非の判断はしない
- 営業電話は一文で:断る意思を明確に伝える。特定商取引法は再勧誘を禁じている
- 落とし穴は3つ:量が多い/置き場所が遠い/担当変更が例文に反映されない




